「1535」 佐藤優氏との対談本、『崩れゆく世界 生き延びる知恵』(日本文芸社)が刊行されました。「発売後、即重版」で非常に好評です。副島理論を真っ向から佐藤氏が受け止めている重厚対談です。2015年6月6日
 副島隆彦の学問道場の中田安彦です。今日は2015年6月6日です。

 すでに書店に並んでいますが、副島先生と作家で元外交官の佐藤優氏との三回目の対談本『崩れゆく世界 生き延びる知恵』(日本文芸社)が発売されました。



 副島先生が、アメリカ政治、トマ・ピケティ論、佐藤さんが、専門のウクライナ情勢の鋭い分析、そして2人がイスラム国の問題について語っています。反知性主義(この言葉はアメリカの政治学者、リチャード・ホフスタッターがジョゼフ・マッカーシーの赤狩りを批判する時に初めて使った言葉。アメリカのキリスト教福音主義派を批判する意味でこれまで使われてきた)に陥った安倍晋三政権の恐ろしい正体を抉りだすように分析しています。佐藤氏は、安倍政権の反知性主義について「ウンコ座りの暴走族」とまでわかりやすくいい変えている。一般にネトウヨとヤンキーと言われているものを佐藤氏がものすごく一般の感覚で理解できるコトバで言い換えるとこうなる。要するに今に自民党はトップの安倍晋三以下、非常に普通の「民主主義国家」とは違う政治家たちが国を動かしているということです。

 集団的自衛権の行使容認と米軍への自衛隊の後方支援を定めた、安保法制についての国会質疑を私は連日ネットの中継で見ているのですが、安倍首相が「ポツダム宣言について詳らかに読んでいない」と言ってみたり、今中谷元(なかたにげん)防衛大臣が「憲法を安保法制に合わせていく」というような戦後の日本と諸外国の国際関係の成り立ちの根本や、立憲主義(りっけんしゅぎ)というデモクラシー国家の基本について全く理解していないような答弁が次々と閣僚の側から出てきます。

 そして安倍晋三は野党のヤジについては「ひとが話している時にはきちんと聞きましょう。学校で習いませんでしたか」と偉そうに叱るくせに、そのすぐ後には野党の質問の時には「さっさと質問しろよ!」と堂々と答弁席からヤジを飛ばし、何度も次の日の安保法制の委員会で謝罪させられています。




「崩れゆく世界」の中の日本の光景


 このように、安倍政権というのは恐ろしいほどの「無知」であり、こんな人達がよくもまあ政治家をやっているなあというレベルの発言ばかりしている。劣化の度合いが著しい。ひどいひどいと思っていた鳩山政権(例外的にまとも)が倒された後の民主党政権よりも比べ物にならないくらいに政治家の質が下がっている。それを佐藤氏のように「ウンコ座りの暴走族」だといえば、確かにあたっている。そのような反知性主義、知性そのものを嫌う政治家たちが、日本のトップに居る。やはり、この本の言う『崩れゆく世界』を象徴している現象だと思います。それを国民は株高という目先の現象に目眩ましされて全く批判する能力を失っている。マスコミも安倍首相官邸の圧力や自民党本部が「放送法」に決められた「テレビ番組の中立規定」をタテに圧力をかけてくることに何も抵抗できない状況です。どんどん国家による統制が強まっている。

結局、安保法制は与党の圧倒的多数の数によって、様々な問題があることが一応は国会審議で明らかになった挙句、強行採決されて成立する。憲法違反であると憲法学者のほとんどが認めているが、アメリカから「やれ」とガイドライン改訂を押し付けられているので、そのガイドラインが先にあるので、国内での法律をどうしても成立させると、安倍晋三がアメリカの議会演説で約束してきたからだ。

 そのような日本の状況のなかで、沖縄基地問題、ウクライナの内戦、イスラム国の台頭による中東の従来の秩序の崩壊のような現象が起きている。そして、アジアでは、尖閣諸島問題、南シナ海の中国と周辺国の海洋権益を巡る対立が、(アメリカのネオコン派によって)煽り立てられている。そのような状況です。

 この本は、二人の思想家が自由な発想で今の世界の大きな問題について語り合っているのが特徴です。イスラム国、イスラム宗派の派閥分析の議論から、日本の過去の学生運動の派閥分析に縦横無尽に話は移り変わって行くのも非常に面白い。佐藤氏の国際情勢分析は第2章(イスラム問題)、第3章(ウクライナ問題)でその本領を発揮していると思います。また、アメリカの政治分析について述べた第4章では、副島アメリカ分析について佐藤氏が適切なコメントを加えています。

 第5章は副島先生が新書『余剰の時代』で発見した思想的な重大問題をそのまま佐藤氏にぶつけている。ピケティの『21世紀の資本』についての二人の白熱の議論が読めます。ピケティに
ついては別の本で佐藤氏は池上彰氏とも対談していたと思います。

 佐藤優氏というのは、さまざまな政治思想を持った人たちと全く違和感なく話をすることができるという稀有な特徴を持った思想家だと思います。日本におけるインテリジェンスの重要性を最初に本格的に実践的にしてきた人物であると言って間違いないでしょう。

 佐藤優氏は、本書の「まえがき」で次のように書いています。

(引用開始)

 もっとも、「ひどい状況だ」と言って嘆いているだけでは、われわれは生き延びることができない。反知性主義の上であぐらをかいている安倍政権に期待しても無駄であることには多くの人びとが気づいている。 生き延びるためにわれわれがしなくてはならないのは、一人ひとりが力を付け、「人間の隣には人間がいる」ということを信じて、社会の力を強化することだ。 その点でも、リバータリアンの副島氏から生き延びる知恵について学ぶべきことがたくさんある。

(引用終わり)

 そして、驚くべことに副島先生はこの本の「あとがき」で次のように述べている。

(引用開始)

 佐藤優氏は、外務省の国家情報官(インテリジェンス・オフィサー)として極めて優秀な頭脳であった。今回も、私は彼と話していて、彼の発言を受けて即座に反応するべきを、自分のコトバがもどかしく、不正確であるということにイヤというほど気付かされた。

(引用終わり)

 このようなことを思想家・副島隆彦が告白するというのは本当に珍しいことです。

 今回の対談は、安倍政権の問題、イスラム世界で何が起きているのか、そしてウクライナで何が起きているか、さらに、崩れゆく世界の中で生き延びるための経済思想について存分に書かれています。前回2010年の対談から5年目、通算で3回めのの副島・佐藤対談です。

 以下にもくじと佐藤氏のまえがきを示します。

 (貼り付け開始:もくじと、佐藤優のまえがき)

第1章 安倍“暴走”内閣で窮地に立つ日本―反知性主義で突き進む独裁政権の正体(官邸主導で暴走する安倍政権の危うさ
戦争に突き進んでいく安倍政権 ほか)

第2章 世界革命を目指すイスラム国の脅威―勃発するテロリズムとアンチセミティズム(イスラム国の実態と世界イスラム革命
激突する西側社会とイスラム圏の背後にあるもの)

第3章 ウクライナ政変で見えてきた世界大戦の予兆―大国ロシアと回廊国家ウクライナの命運(日本人が知らないウクライナ政変の真実
ロシアを抑え込む寝業師プーチンの実力 ほか)

第4章 オバマとヒラリーの激闘から読む世界の明暗―アメリカの思想対立でわかる国際情勢の明日(ヒラリー・クリントンが次の大統領になる
オバマ政権とキューバ・イラン・北朝鮮問題 ほか)

第5章 行き詰まる日本経済―余剰の時代の生き延び方―ピケティ、マルクス、ケインズの思想と倒錯する経済政策(ピケティの『21世紀の資本』の思想を読み解く
資本の過剰とケインズ経済学 ほか)

はじめに(佐藤優)──激変する国際秩序の構造  2015年に入って、国際秩序の構造が急速に変化している。  

まず、指摘できるのが1月7日、フランスで起きた連続テロ事件だ。これは今までのテロ事件とは位相を異にする。イスラム教スンニ派系過激派「イスラム国」(IS)が、全世界に対して、世界イスラム革命の開始を宣言したのだ。  

この人たちは、アッラー(神)は、1つなので、それに対応して、地上においても唯一のシャリーア(イスラム法)が適用される単一のカリフ帝国が建設されるべきであるとする。この目的を実現するためには、暴力やテロに訴えることも躊躇しない。  

歴史は反復する。しかし、まったく同じ形で繰り返されることはない。  

こういうときに重要なのは、アナロジー(analogy、類比)を適用することだ。アナロジーとは、論理(logos)に即して物事を考察するということだ。  

約100年前にもイスラム国によく似た運動があった。国際共産主義運動だ。  

1917年11月(露暦10月)にロシアで社会主義革命が起きた。この革命は、マルクス主義に基づいてなされた。  

マルクスは、「プロレタリアート(労働者階級)に祖国はない」と言った。国家を廃絶し、プロレタリアートによる単一の共産主義社会を形成するのがマルクス主義の目標だった。  マルクスは、社会主義革命は進んだ資本主義国で起きると考えた。  

しかし、実際に革命が起きたのは後発資本主義国のロシア帝国においてだった。ロシア革命に続いてドイツとハンガリーで革命が起きたが、当局によって直ちに鎮圧されてしまった。そこで、ロシアの共産主義者は、独自の戦略を考えた。  

ソビエト・ロシア国家(1922年からはソ連)は、国際法を遵守し、他の資本主義諸国と安定した関係を構築する。  

他方、1919年にコミンテルン(共産主義インターナショナル、国際共産党)を結成し、資本主義体制を転覆し、世界革命を実現するというシナリオだ。  

コミンテルンは本部をモスクワに置いたが、ソ連とは無関係とされた。コミンテルンの公用語は、ロシア語ではなく、ドイツ語だった。  

各国の共産党は、国際共産党の支部と位置づけられた。日本共産党は、国際共産党日本支部だったのである。  

当初、レーニンやトロツキーは、コミンテルンを通じて本気で世界革命を起こそうとしていた。

しかし、1930年代にスターリンが権力を掌握すると、世界革命の実現よりも、ソ連国家の強化に力を入れる一国社会主義路線を取るようになった。  

それでも、資本主義諸国に「弱い環」ができるとソ連は、革命の輸出を試みた。キューバ、南イエメン、アンゴラなどがソ連型社会主義体制を目指すようになったのがその例だ。  

1991年12月のソ連崩壊によって、資本主義陣営 対 社会主義陣営というブロック間対立の時代は終わった。  

その後、世界はグローバル化し、アメリカの一極支配による新自由主義が席捲した。  

しかし、アメリカの勝利は一時的なものだった。  

アメリカが危機に陥ることをいち早く予測したのが、本書の共著者である副島隆彦氏だ。副島氏が、2009年9月のリーマン・ショックを半年も前に予測した。この時点でリーマン・ブラザーズという固有名詞をあげて、アメリカの金融危機が到来することを予測したのは(私が知る範囲では)、副島氏だけだ。  

副島氏は、黒人の血を引くオバマ氏が大統領になることも早くから予測していた。  

ユダヤ教、キリスト教には、預言者という人たちがいる。  

ところで、日本語の発音が同じなので、預言者と予言者がよく混同される。予言者は、未来を予測する人であるのにすぎないのに対して、預言者は、神から預かった言葉を人びとに伝える人だ。  

その中に、未来予測も含まれるが、預言者のメッセージの中心となるのは、「崩れゆく世界の現実を見よ」との警鐘だ。  

イスラム国に対抗するために、アメリカのオバマ政権はイランと手を組もうとしている。  イスラム国には、内ゲバ体質があり、アメリカ、イスラエル、西欧などの非イスラム諸国を打倒する前に、イスラムを騙る反革命であるシーア派(特に十二イマーム派のイラン)を殲滅しなくてはならないと考えている。それだから、イランにとって、イスラム国を封じ込めることが死活的に重要な課題になっている。  

アメリカは「敵の敵は味方である」という単純な論理でイランと手を握ろうとしている。  そして、今年4月5日、米英仏露中独とイランの間で、イランの核問題に関する枠組みの合意がなされたが、これは将来、イランが核兵器を保有することを認める危険な合意だ。  

イランが核を持てば、まず、パキスタンにある核兵器がサウジアラビアに移転し、他のアラブ諸国もパキスタンから核を購入するか、自力で核開発を行ない、核不拡散体制が崩壊する。世界は実際に崩れ始めているのだ。  

もっとも、「ひどい状況だ」と言って嘆いているだけでは、われわれは生き延びることができない。反知性主義の上であぐらをかいている安倍政権に期待しても無駄であることには多くの人びとが気づいている。  

生き延びるためにわれわれがしなくてはならないのは、一人ひとりが力を付け、「人間の隣には人間がいる」ということを信じて、社会の力を強化することだ。  

その点でも、リバータリアンの副島氏から生き延びる知恵について学ぶべきことがたくさんある。

2015年4月26日、沖縄県名護市にて 佐藤 優

(貼り付け終わり)

(貼り付けはじめ:あとがき)

おわりに――反知性主義に陥る日本に怒る 副島隆彦

佐藤優氏と私の対談本は、これで3冊目である。
前の2冊は『暴走する国家 恐慌化する世界』(2008年 日本文芸社刊)と『小沢革命政権で日本を救え』(2010年 日本文芸社刊)だった。
この本は、日本がさらに追いつめられ、国民生活が逼迫(ひっぱく)してゆく中で2人の真剣な対談となった。

佐藤優氏は、外務省の国家情報官(インテリジェンス・オフィサー)として極めて優秀な頭脳であった。今回も、私は彼と話していて、彼の発言を受けて即座に反応するべきを、自分のコトバがもどかしく、不正確であることにイヤというほど気づかされた。

編集部によってまとめられゲラ(gally proofs、ガリー・プルーフ)になった下(した)原稿に編集者と一緒に、添削の赤ペン入れを入れる段になって、私は本当に大量の訂正の筆を加えた。この作業を終えるのに丸5日かかった。

それに対して佐藤氏の話した部分(意見表明)は、極めて簡潔にして、要を得て端正(たんせい)であった。即座に情勢を把握し、問題点を見抜き、自分の考え(対処する判断)を短く話している。

ああ、この人はもともとの地頭がいいんだ、とわかった。
佐藤氏は外務省という国家組織の中で揉(も)まれて情報官としての経験と訓練を20年間積んでいる。
佐藤優氏の知識の領域における“全方位外交”はつとに有名である。日本国内の右(保守)から左(リベラル)までのあらゆる勢力に対して、いつも開かれた態度でいるこの点を私は真剣に見習わなければいけない。でも、もう遅いかな。

私はあまりに敵と味方をはっきりさせる言論と思想表明をやってきた。このことが私自身の「言論の場」を狭めてきた。敵をつくり過ぎた人は生き残れない。誰に対しても、幅広く大きくゆったりと話しかける佐藤優の態度に学ぶべきだ、と考える人は多いだろう。

私が佐藤優をホメ上げるために、この対談本がつくられたわけではない。日本の、迫り来る目下の重要な諸課題に真剣に対処するために、私たちはどのように考え、どのように準備をし(備(そな)え)、行動したらいいのか、の指針を示そうとして、この本はつくられた。

どうも世界基準(ワールド・バリューズ)から見て、日本国民の思考(力)の劣化はヒドいようである。この30年間ぐらいで、ずいぶんと知能、知識の水準が落ちた。人々がわざわざ難しそうな本を(買って)読むことをしなくなった、と嘆(なげ)く言葉ならよく聞く。

日本人は政治問題をきちんと議論することができない。政治思想を考え、学び合う国民慣習(ナショナル・カスタム)を計画的に打ち壊され壊滅させられた惨めな国民である。今の日本人はパーである。

これを指して、佐藤優がいち早く反知性主義(はんちせいしゅぎ)と名付けた。私もこの考えに賛同する。その理由と責任の一部は、今の日本人の政治権力(政権)を握っている者たちの知識の低さにある。彼らは明らかに右翼(ライトウィング)である。そのために国民教育における知性教育の劣化が激しく見られる。

この無惨な現実に対して、私と佐藤優は強い危機感を抱いている、などというものではない。怒っている。
今の日本の知識人を代表する2人が(と書いたら威張りすぎか?)の現状に厳しく切りかかる。

最後に。この本が出来上がるまでには、日本文芸社書籍編集部の水波康編集長と、グラマラス・ヒッピーズの山根裕之氏のいつもながらの強力な下支えがあった。対談者2人を代表して感謝の気持ちを表します。

2015年4月 副島隆彦

(貼り付けおわり)

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中田安彦拝


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