「134」 雑誌原稿 「米国  ”ねずみ講経済” の 破綻」 2009年2月執筆 を載せます。 2010.9.11
副島隆彦です。 今日は、2010年9月11日です。 続けて載せます。この評論文は、2009年2月に書いたものです。 副島隆彦拝

(転載貼り付け始め)


「米国 ”ねずみ講経済(ポンツィー・スキーム・エコニミー)”の 破綻」 



副島隆彦 2009年 2月 9日 校正済み


● オバマは既に包囲されている?

 今年(2009年)1月20日にバラク・オバマ政権が発足した。「米国独立宣言のような気迫」を示したオバマの就任演説は好評を博し、政権の出発は米国民の70%弱の高支持率だった。ところが、暗雲がすぐに立って、次々と任命したばかりの長官たちの辞任が相次いでいる。

 商務長官になる予定だったビル・リチャードソン・ニューメキシコ州知事は、就任前から地元の金銭スキャンダルで降りた。ビル・リチャードソンといえば、ヒスパニック(メキシコ系)の代表であり、これで政界内でのヒスパニック勢力への牽制が行われた。

 また、就任直後には、オバマにとってもうひとりの片腕であると目されていたトム・ダシェル厚生長官(前民主党上院院内総務)が辞任した。ダシェルは本気でオバマ政権を支えようとした大物政治家だ。それから女性の司法長官(アトーネィ・ジェネラル)も辞任した【?:司法長官はエリック・ホルダーでは?その前段階での話?】。

 激しい大統領選挙を戦った相手なのに“何故か“国務長官に就任してしまった、ヒラリー・ロダム・クリントンによる、オバマ包囲網が出来つつある。オバマは政権発足からすぐに包囲網に遭っている。今や米国の新政権はヒラリー派(あるいは、さらにそれを背後から動かすニューヨークの金融財界人たち)によって、金融・経済政策の実質は奪い取られたと言っても過言ではない・・・。

●米国は米国人が最も嫌う国家統制に向かう

昨年(2008年)の9月15日に米証券(投資銀行)大手のリーマン・ブラザーズが破綻して以来、世界的に金融危機(ファイナンシャル・クライシス)が広がり、実体経済(タンジブル・エコニミー)にまで危機感は高まった。

 米国だけでなく日本の大企業の減益から赤字転落の決算の報告が年明けから相次いでいる。トヨタもソニーもパナソニックまでも減益(経常黒字維持)どころか、ようやく営業利益を算出できる状態である。日立は7,000億円の赤字決算となった。この「米国発、金融恐慌の前段階」というべき世界危機は今も続いており、ちょっとやそっとのことでは収まりそうもない。何とか今年を耐えれば来年には景気回復するのではないか、というのは根拠の無い楽観論であろう。

 米政府は昨年10月に、緊急に最大7,000億ドル(70兆円)の公的資金を使って不良資産(バッド・アセット)を買い上げることを骨子とする金融安定化法案(金融救済法案、TARP、タープ)を策定した。リーマン・ブラザーズの破綻に続いて、昨秋から大銀行と大証券会社(投資銀行)が次々と危機的な状況に陥るなかで、米政府はそれまでの「企業の市場原理重視」「自由競争型」の方針を大転換して、国家による干渉政策である、民間金融部門の「国家による救済」(government take-over ガヴァメント・テイクオーヴァー)をやりだした。

 つまり既に「国有化」され始めているというのが真実である。しかし、実態から言えば、この銀行国有化は、社会主義国家化であり、米国人たちはこれを非常に嫌う。さらにこれが進むと、かつて米国で1回だけ行ったことがある「連邦化」(federalization、フェデラライゼーション)にまで至る。ここまで来ると明らかに国家非常事態での共産主義国家である。完全なる金融統制体制(controlled economy、コントロールド・エコノミー)であり、独裁政治体制である。米国、そしてそれに追随する日本は、この恐ろしい金融統制体制に向かいつつある、とするのが私、副島隆彦の考えだ。


●日本も米国同様、国家統制に向かう(仮)

 その端的な証拠が、今や「銀行でのATMでの送金が10万円しかできない」という法規制と、「金融商品でさえない、ただの商品でも、200万円の物品には、お店で購入者の住所氏名を書かせる」という規制である。たとえば、金地金は、絶対に金融商品ではない。だから、2007年に新設された金融商品取引法(金商法、以下略)の対象ではない。金塊は、鉱物資源なのであって、決して金融商品ではない。

 金の地金(延べ板)は、たとえば「ヒノキの木を30本買う」のと同じで、ただの商取引なのだ。だからいちいち政府にそのような売買を届けるとか名前を書くとかをする必要は無いのである。ところが、官僚たちによる、資産家や経営者層のお金(資金、資産)の動きを監視下に置こうとする金融統制体制(コントロールド・エコノミー)に、日本も米国も計画的に移行しつつある。だから恐ろしいのだ。私たちは必死で、自分の財産や金融資産を、国家と官僚たちからの奪い取り攻撃から何としても守らなければならない。

 農林中金を始めとして、日本でもこれからまだまだ破綻の危機に陥るであろう大銀行に対する政府資金の投入(公的資金の投入、資本注入、税金投入)は「政府による直接支配」(direct governmental control、ダイレクト・ガヴァメンタル・コントロール)を意味し、これぞまさしく共産主義体制 (communism 、コミュニズム)そのものと言っても過言ではない。 


●「救済」という言葉の背後にあるもの(仮)

 オバマ政権になっても大銀行の「国有化(公的資金の投入)」はまだ「国家による救済(government take-over ガヴァメント・テイクオーヴァー)」と優しく表現している。しかしその実質は、「政府による(支払いの)保証(government mandate 、ガヴァメント・マンデイト)」宣言に他ならない。

 2008年7月13日に当時のヘンリー・ポールソン財務長官が、世界に向けて公表した、530兆円の負債(返済できない債券)を抱えて実質的には破綻しているファニーメイとフレディマックという政府系の二大住宅公社の機関債には、「暗黙の政府保証があるから債券の購入者は安心だ」とされていた。しかし昨年10月3日に、米連邦議会で金融救済法として通過したのは、7,000億ドル(70兆円)の金融安定化法案(ファイナンシャル・スタビライゼイション・アクト、別名は金融救済法、ベイルアウト・ビル)がやっとのことだった。

 とても530兆円(5兆ドル)もの巨額の救済資金は、米国政府といえども出すことは出来なかった。この時は、“下院議員たちの叛乱”を押さえ込んで何とか7,000億ドル(70兆円)の法律を可決した。これで不安視されていた「政府の保証」策が適用されて、政府保証は「暗黙」ではなくなり、「名実ともに」返済(償還)が政府保証されたことになった。これで両公社の機関債や保証しているRMBS(アール・エム・ビー・エス:住宅ローン債券担保証券)の世界的な“取り付け騒ぎ”が一旦は収まった。

 これで日本や中国、サウジアラビア、それから欧州の大口債権者たちも一応は納得した。ところが実態は、既にこの両住宅公社は破綻しているのであり、実際には債務額は5兆2,000億ドル(530兆円)にも及ぶ。この機関債(エージェンシー・ボンド)や米国政府に支払い保証されていることになったと「表面上は考えられている」RMBSは、満足に返済されることはないと見るべきだ。 

 ポールソン財務長官(当時)によって、外国が買った分として公表されたのは160兆円だった。日本勢はそのうちの23兆円分を引き受けている(購入している)。しかし本当は40兆円以上だと思われる。中国とサウジアラビアも同じく40兆円ほどある。英国では10兆円程度を保有していたことが明らかになった。これは同国の規模から考えるとかなり巨額なものである。このニュースに英国国内は騒然となり、ゴードン・ブラウン政権が崩壊しかかった。



●「焼け石に水」の米国金融安定化策(仮)

 ブッシュ前政権は政権末期の機能停止(レイムダック)の最中でも、大規模な景気対策を打ち出した。さらに銀行が保有する不良債務の買い取りや、両住宅公社及び金融機関の救済にかなりの公的資金投入策を発動した。  即座に破綻した大銀行数行に25兆円の投入決定した。この時点で米国の財政赤字は既にかなり膨張している。

 米国では会計年度が7月末で終わる。そして8月1日に次年度に入る。だからこの時の半年間の金融危機(信用崩壊)を何とか乗り切っても、次の2009年4月(年度後半)以降になると、米国債に対する信用の失墜という形で危機が再燃する。そのように運命付けられているのである。

 それゆえにオバマ政権は、次々と襲い掛かってくる金融不安に対して、矢継ぎ早に緊急対策を打ち出さなければならない状況下にある。米国が現在抱えていると思われる巨額の不良債務の規模は、連邦政府だけでもおよそ20兆ドル(2,000兆円)くらいは存在すると考えるのが自然だろう。

 したがって前回の金融安定化法で決まった7,000億ドル(70兆円)では「焼け石に水」で全く不足しており、これでは全く話にならない。少なくともこの10倍、700兆円の金融救援資金が必要となるだろう。このようにして今後、際限なく政府部門の不良債務が膨れ上がっていくことになる。それはこれから数年間は続くものと見なければ済まないだろう。そして往き着く果ては“米ドルの大暴落”であり、それはまさしく“ドル覇権の崩壊”であると言う結論に至る。

● 誘爆連鎖していくデリバティブ(仮)

 2007年8月17日に起きた、低所得者層向けの住宅ローンであるサブプライム・ローンの焦げ付きに端を発した金融危機に関して、その予兆は危機が起こる前の3~4月頃からはっきりとあった。

 サブプライム・ローンを証券化したRMBS(住宅ローン債券担保証券)に、さらにそれを含むCDO(コラテラライズド・デット・オブリゲーション:被担保不良債権証券)の償還の危機に波及した。この金融危機は、米国内だけでもさらに連鎖して行く。

 次には、消費者ローン(クレジット・ローン)、自動車ローン、奨学金ローンに飛び火する。そしてその次に、RMBSの3倍の残高を持つというCMBS(コマーシャル・モーゲッジド・バックド・セキュリティーズ:商業用ビルのローンを証券化した商品)という他の信用市場にも波及し、次々と焦げ付きは拡がりつつある。

 さらに、これぞ“金融核爆弾“と呼ぶにふさわしいデリバティブ(金融派生商品)であるCDS(クレジット・デリバティブ・スワップ、担保不良債権証券:企業の破綻リスクを売買する証券化商品)の焦げ付きも懸念されている。CDSの残高は、なんと最大時で、7,200兆円(60兆ドル)もあったとされ、2009年2月時点でも5,000兆円あるとされている。この金融核爆弾が破裂すると、本当に世界の金融の帝都ニューヨークは崩壊するだろう。

 さらに、再び、一度騒がれたモノライン(金融保証業務専門会社)4社という、身の丈に合わない信用保証をしていたノンバンク大手(日本で言えば、日本信販やジャックスくらいの規模)の破綻危機が再燃するだろう。この4社は、自社が高い格付けを永遠に維持できる保証など何処にも無いのに、分不相応にも米地方債(ミュニシパル・ボンド:カリフォルニア州債やニューヨーク市債など)を保証している。 

 実はこの点について、日本でも、官民合わせてこれらの米地方債を山ほど買っており、米国債(財務省証券)だけならまだしも、カリフォルニア州債やNY市債などの米地方債をかなりの額で買い込んでいることは以外と知られていない。この事実とその購入残高が日本国内で大きく露見したら騒ぎはもっと大きくなるだろう。


● 公的年金基金の深い闇(仮)

 そして最後に、公的年金と健康保険などを運用している非営利法人(中間法人、日本のNPOやNGOと呼ばれるものの本来の姿)の危機につながるだろう。世界最大の年金資金運用団体であるCalPERS (カルパース、カリフォルニア州職員退職年金基金)の運用が危機的な状態に陥っているようである。その他の州の退職金基金も同様である。それまで派手に、最も尖鋭に金融市場で資金の運用をしてきた団体である。それは日本の農林中金と同じように参加組合員の年金や共済掛け金を運用してきた緒団体である。それがここに来て一挙に裏目に出ている。

 10兆円の外債を抱えて、やがて破綻すると思われる農林中金が、日本政府の全面支援で公的資金の投入で救済される日は近いと思われるが、カルパースの苦境は、まさしく日本の農林中金の苦境とよく似ている。

 非営利年金運用法人であるカルパースは、米国の株式や債券の暴落に伴う損害だけではなく、通貨先物でも大きな損を出したと噂されている。つまりデリバティブでも相当にやられている模様である。その負債額(未償還元本)は2兆ドル(180兆円)ほどにも及ぶだろう。故に、このカルパースのような、非営利(利を求めず、営業もしないと見なされている)法人(non-profit organization)にも早晩、危機が波及していくのである。

 日本でも同じく、米国に引き摺られるよう、各種の年金運用団体や共済団体の資金運用が急速に悪化している。おそらく米国は私たちの想像以上に悪い状態にあるだろう。よって、最後にはこの非営利の資金運用部門が大破綻するだろう。まさしく“年金崩壊”である。このような課程で経済危機は、最後には必ず、富裕層ではない、これまでコツコツと零細な年金を掛け続けて来た一般国民に“しわ寄せ”がいくものであり、これ以上のものはない。

●今そこにある“もうひとつの金融危機”(仮)

 この非営利法人を巡る経済危機の途中で、実は、もうひとつの大きな金融危機が起こるのではないかと危惧している。それは『米国内で安定した収入を持つ堅実かつ優良な顧客層向け』だと考えられている『健全な住宅ローン』、プライム・ローンで起きるではないだろうか。

 景気のさらなる悪化によって引き起こされるプライム・ローン利用者の失業や投資の失敗などで、資金繰りの逆回転が発生。これにより利用者が過重なローンの返済能力を失い大量の焦げ付きが起きる可能性がでてきた。 
 米国の住宅ローン残高は14兆ドル(1,500兆円)と言われており、この数字は米国のGDP(一年間の国内総生産)にほぼ等しい。この14兆ドルの約8割を占める『健全な住宅ローン』であるプライム・ローンの借り入れ層が米国の恐慌入りと共に、次々と債務不履行(デフォールト、個人破産)に陥ってゆくことが強く危惧される。

 そうなると大多数の米国民が住宅ローンとその他のローンを支払えなくなり、家や自動車を失うことになりかねない。特に「モーゲッジ・エクイティ・ローン」という、年収10万ドル以上の上層サラリーマン層が投資用も含めて保有してきた数軒の住宅や、コンドミニアム(投資用のアパート)を担保に極限まで借り入れた住宅ローンが、住宅価格の下落(現在、全米平均でピーク時から20~30%の下落である)によって、逆回転を始めている。

 そして銀行からの担保価値割れを理由とする厳しい返済要求(貸し渋り・貸し剥がし)が次第に強まっている。企業の倒産やリストラ(レイオフ、失業)による住宅ローンの不払いが大量に起きて、このプライム・ローン危機までに至りつくと、これは、まさしく米国の国民レベルでの「下からの金融恐慌突入」である。

 このような住宅ローンによる個人破産のシナリオは、世界史的な基準でみると、単に金融制度の問題であることを超えてしまっている。実際問題として、ローンの支払いが滞って家を失うことになるはずの多くの米国国民は、居直ってしまうだろう。すなわち、ここで「借りたお金は返す」という当然の流れが遮断されるのである。


● 米国「緊急金融統制」への道程(仮)

おそらくこの時に米国政府は、国内での通貨の単位を変えるだろう。その前に、激しい物価の値上がりであるハイパーインフレーションが、米国内を襲っていることだろう。だから、ここで従来の100ドルを1ドルにする、という「通貨単位の変更」をするのではないか。即ちデノミネーションである。

 現在、米国における政府部門の不良債権残高は、単年度ではなく累積で、GDP(米国は現在14兆ドル:日本円で約1,300兆円に相当)の3倍から4倍の規模にまで膨れ上がっている。よって、概算で4,000~5,000兆円の政府不良債権を抱えている事になる。

 この政府部門の不良債務の内訳は、政府財政赤字、特に累積の長期の政府負債分と、50州と大都市の地方政府の債務分である。この概算で40兆ドル(4,000兆円)の累積の負債を償却(Wright off、ライト・オフ)して、金融システムを健全化するには、さらに膨大な財政負担を伴うことになる。このために米国のような対外的にも累積債務国(大借金国家)では「緊急の新ドル切り替え」を実施して、“徳政令”に踏み切る以外に問題の解決はあり得ない。

 ドル暴落と同時かあるいは前後して、この新ドル紙幣への切り替えと「預金封鎖」が一挙に断行されるだろう。すなわちこれが、緊急の金融統制体制への移行である。ちなみに日本の累積の公的債務残高は、1,300~1,400兆円である。これも1,000兆円弱の中央政府の債務分と400兆円の47都道府県および大都市の債務である400兆円を合わせたものである。 

 さらに、米国内での財政赤字(不良債務残高)と内容で重なるのだが、米国の対外的な負債(つまり外国からの借金)で、米国内に外国から流入している債務性の資金が総計で4,000兆円ぐらいはあるだろうといわれている。これは前述した米政府部門の債務総額とほぼピタリと見合っている。そして、このうち日本からの借金は実に600兆円である。

 数年後を待たずに米国で実施されるであろう、《緊急の新ドル切り替え、および国内でのデノミネーションの導入》の際には、まさしくこれが「緊急金融統制」であるが故に、各種の産業統制令や生活物資への統制(配給制など)が緊急立法の形で一気に発動されるだろう。そして、これには必ず預金封鎖(預金の引き出し制限)を伴うことになる。一般の米国人は預金などあまりしていないから打撃は少ない。それでも資産家層や富裕層にとっては大きな打撃となる。

 今回、7,000億ドル(70兆円)を投じる米国の金融安定化法案で、銀行が破綻した際に政府が保証する預金払い戻しの額(ペイオフ)は、それまでの「10万ドル(1,000万円)」から「25万ドル(2,500万円)」に値上げされた。それでも、米国国民の通常感覚からすれば、銀行預金を政府が保証してくれるという制度はピンと来ない。

 歴史的にみて、米国人は銀行に預けた金に対してクールである。例えばある米国の銀行が銀行強盗に遭って破綻したとすると、その銀行の預金者は「預金が3分の1でも戻ってくれば“御の字”だ」と考える。これが米国人の共通感覚(コモンセンス)である。

 実際に昨年7月に取り付け騒ぎを起こして破綻したインディマックという中堅の住宅専門銀行(地銀レベル)では、預金者の預金は約3分の1しか連邦預金保険公社(FDIC、エフ・ディー・アイ・シー)から償還されなかったのである。


● ポンツィー・スキーム・エコノミー・イズ・デッド

 米国で自動車の売り上げが目立って落ち込んでいる事態が直面する経済危機に追い討ちをかけた。昨年末にトヨタでさえも北米の販売台数が2割減となった。自動車を購入するとき、米国人はほとんど自動車ローンを組む。現金で車を買う人はほとんどいない。現在、米国では信用収縮(クレジット・クランチ)による貸し渋りが起きている。そのため、企業だけでなく個人に対してもクレジット・ライン(与信枠)が厳しく見直されて続けている。

 だから多くの人が新たな自動車ローンを組めなくなった。このことが自動車の販売不振の大きな要因であり、金融危機の影響はこのような形で、実体経済(tangible economy 、タンジブル・エコノミー)の各面にまでどんどん波及してきている。

 そもそも、これまで米国経済が2007年7-9月期まで好景気を維持していたのは、個人消費が好調だったことによるところが大きい。それは居住物件の資産価格が高騰していたので、「資産効果」で、それを担保にして住宅ローンをさらに借り増しをして、さらに一軒の別の家や投資用のアパートを買ったからであり、株式投資などで儲かった金で消費にも資金を回していたからに他ならない。米国はすでに巨大な「借金国家」であり、世界中
から資金を流入させて使い散らかし、何と、その借金した資金から配当や利子を支払っていたのである。まさに“ネズミ講”そのものである。

 ネズミ講のことを、英語ではポンツィー・スキーム(Ponzi scheme)と言う。イタリア移民であるポンツィーなる人物が郵便切手への投資から始めて広め、それが刑事事件になってはじけるのは日本と同じ構図である。“米国ネズミ講経済 (Ponzi scheme economy、ポンツィー・スキーム・エコノミー)”で、諸外国から投資の形で集めた資金を使い散らして米国民は湯水のように費消した。

 集めた資金を実のある各種の産業に投資して、運用して真の価値を創造して利益を産み出し、そこから金利や配当を払っていたら問題は無かった。そうではなく、米国がやっていたのは、諸外国から借りたカネからさえも手数料を徴収しつつ、実需と実体のある産業への投資を怠り、もっぱら自分たち金融業界内部でのマネーゲームに狂奔して、手数料と利益を自分たちだけで内部で抜き合い、しかもそれを複雑に証券化(セキィリタイゼーション)して金融証券化商品(デリバティブズ)に仕立てた。

 それらの次々に複雑に仕組まれて、作られた金融証券化商品は、さらに転売に転売を重ねて、さらなる手数料の抜き合いが行われていたのである。投資した諸外国に対しては、運用している資金から金利や配当を払いつつ、また新たな資金を国外から呼び込むことを繰り返してきたのだが、それがここにきて、ついにこの米国の巨大な“ネズミ講経済”は崩壊したのである。ここに至る過程は必然であり、自明の理であり、私はここに至る道筋をこれまでずっと何冊もの本に書いてきた。

 米国は第二次世界大戦直後(1945年)には圧倒的な経済大国だった。戦場となり爆弾が雨あられと降って焼け野が原になった諸外国を尻目に、世界GDPの実に70%を占めていた。名実とも世界帝国(世界覇権国、hegemonic state ヘジェモニック・ステイト)であった。ところが、その後の30年で製造業では日本や西ドイツに抜かれ、対外的には貿易赤字(トレイド・デフィシット)を積み上げてきた。

 それを補うため、米国は金融業を興隆させ、外国の資金を呼び込み、あるいは各国の貿易黒字から生まれる資金を米国内に滞留させることで、「資本収支(国際収支)」では圧倒的な黒字国家となっていた。それを背景にして政治的な世界覇権(ワールド・ヘジェモニー)を維持してきたのである。

 米国は、金融業では得意の金融工学(financial engineering 、ファイナシャル・エンジニアリング)を開発し、1980年代末から、貿易赤字と財政赤字という二つの実体経済(リアル・ウエルス・エコニミー)面での不都合を補ってきた。

 “金融工学を駆使して相当の利益を出していた”といいながら、本当はどうもそうではなく、実際には単に金融法人どうしで、談合にも似た取引を繰り返して、手数料を取り合いし、予め自分たちで“お手盛りで”決めた「予想収益率」と、それを生み出すための「想定元本」を巨額に積み上げた。その代表が、前述した“金融核爆弾”CDS(担保不良債権証券)の想定元本残高の5,000兆円である。

 しかしてその実体は、信用乗数効果(マルチプリフィケーション・イフェクト)によって、資産と負債の両方を巨額に膨らませて続けただけに過ぎない。正常そうに見せかけた各種の債券市場を作って、詐欺まがいの取引を大量に無限に繰り返した。その実際は、多くの人が見ている衆人環視での、国民に開かれた、公開・公共の市場などというようなものではなくて、もっぱら銀行・証券・保険会社どうしの相対取引で、同じ投資対象を何回も取引していた。転売と購入を繰り返せばその資産価格は高騰するに決まっている。それこそ“倍々ゲーム”で相場を吊り上げていった。


● 取引残高総額8京円の“泡”(仮)

 しかし、いつかバブルは崩壊し大天井を打って急反落していくものであり、これを天罰とも、神の采配(さいはい)ともいう。このバブルで最も外側の膨らんだ部分は「米国におけるデリバティブ商品の取引残高総額8京円」と呼ばれている。8京とは、8,000兆円の10倍である。このことをもっと分かりやすく説明しよう。

 例えば、私たちが「死亡時に6,000万円を受け取ることができる生命保険に加入している」とする。それに対して掛け金として、毎月4万円ぐらいずつを10年間払い続ければ。その総支払額は500万円近い水準になる。30年かけ続ければ1,500万円の支払い総額である。70歳の満期までに死亡しなければ保険金を受け取ることはできず、支払った分の大半は掛け捨てなので戻ってこない。

 デリバティブの原型もここにある。デリバティブ(金融派生商品)の本質は保険商品なのである。その中身に博打(ギャンブル、カジノ)の仕組みが必ず仕組まれている。

 バブルが世界規模で大崩壊した今、実際に処理しなければならないのは、名目上の各デリバティブ商品の残高における「総額の10分の1程度」ではないだろうか。それ故に今回、米国の金融市場は、8京の一割の8,000兆円を何としても返済しなければ済まないだろう。少なくともその半分の4,000兆円を、償還、返済、負担しなければ、今回の世界的な金融危機(米国発世界恐慌)の峠を越すことは無いだろう。

 だから「真水(まみず)」の実損で、米国が自分の身を斬られる思いで処理しなければいけない、血が吹き出しそうになる(更に金融機関がバタバタと破綻する)金額は、8京円(800兆ドル)の5%の4,000兆円(40兆ドル)だろう。これが私のはじき出した一番大きな数字での概算である。

 例えば、「9.15リーマンショック」の翌日に救済されたAIGのケースが参考になる。AIGグループは、2008年9月16日に実質破綻したことで米政府が救済に乗り出し、850億ドル(約9兆円)で株式の大半を奪い取って半ば国有化した。世界最大の総合保険会社(マルチライン)であるAIGグループにおける日本の子会社のひとつであるAIGエジソン生命では、日本の自衛隊や消防庁や教員の年金運用の生命保険が取り扱われていることが漏れ伝わっていた。

 これらの公務員系の年金や保険の運用も、何と外資系の団体信用生命が担っていたのである。このように、日本の年金資金の運用や、保険の再保険(アンダーテイキング)を米国の保険会社に任せっぱなしにして、日本国内の年金や保険の運用資金を海外に流出させていたのか。それとも国内で何割かは、超低利の日本国債などで着実に資金運用をしてきたのか。それが目下の大きな焦点になっている。

 もし後者であれば、資金は日本国内に存在していることになるので安心だが、さらにその上の運用団体が “米国ネズミ講”方式にひっかかって、米国債での投資運用となっていたらどうだろう。考えるだけで思わず身震いしたくなる事態である。

 日本国債と米国債以外の、前述した米住宅公社債や、MMF(マネー・マネージメント・ファンド)など元本保証のない債券によって、これらの日本の年金や保険資金が運用されていたとしたら、それはもう一大事である。これらの公的な資金運用団体の内部関係者は、今頃血相を変えてその責任の擦り付け合いをやっているのではないだろうか。


● “金融核爆弾”の破壊力(仮)

 通常戦争が始まると、敵国性資産を資産凍結(アセット・フリーズ)することで資産が国外に流出しないようにする。これは、外交上のレシプロシティ(相互性)と言って同じことを相手国もする。これと同じことで、政府は、自国内にある資金が一気に海外に送金されることを阻止しようとする。政府は「保全命令」を出して国内資産が消失しないようにする。

 9月15日にリーマンが破綻した際に、日本ではリーマンの日本国内における子会社群の法人に対して、日本の金融庁は、僅か2時間後にはそれらを差し押さえた。本当は裁判所の命令が必要なのだが、その手続きの開始まで1週間を要するという。そんなに待っては居られないということで金融庁の行政命令でやってしまった。

 保険会社は掛け金のうち、加入者への保険金の支払いに回す部分については別建てできちんと積み上げておかなくてはならない。保険会社のほかにも証券会社であってもこうした分別管理が徹底的に義務付けられている。

 しかし、今回のリーマンの破綻については、元々が紙切れだった奇怪な証券化商品で資金の多くを運用していたので、その分については分別管理していても意味がなかっただろう。リーマンやAIGに踏み込んだ金融庁の係官たちも、帳簿の山を見て何がなんだか分からなかったはずである。それ以外の日本国内の不動産等は実質“差し押さえた”ようである。

 銀行でなく一般の事業法人でも、他社に融資をした場合、融資額の2割程度の引当金を積まなければいけないことになっている。これは法律で規制するなどという以前であって、商業道徳として「古くから堅実でまともな商人(経営者)」ならば実践してきたリール(自然の法則)である。

 ところが、ここに引当金を積み立てたくなくて、全部の資金を貸し付け(融資)に回してしまいたい“まともではない銀行”がいたとする。彼らとしては有り金全てを融資したいばかりに“リスク分散”を名目にして、それらの貸付債権をさらに債券に仕立てて売り払って(転売)しまった。そして万が一、融資先が倒産した場合には、さらに証券購入した第三者から元利で返してもらうというような複雑な取引を作った。この取引がこの文章で何度も登場してきた“金融核爆弾”、CDSと呼ばれるものだ。

 この金融証券化商品(デリバティブ)は、企業の「貸倒引当金」を担保にして原資にし、それを基に保険商品を組み立てたものだ。言ってみれば、ある企業の心臓そのものの売り買いを第三者の他社どうしでする、「企業の生命の他人保険化」とでもいうべきものである。

 これらの特殊な仕組み債の債券の売り手としては、ある会社(対象企業)が倒産してしまえば代わりに、企業倒産の保険額における全額の支払い義務を負わなければならなくなる。そのために連鎖倒産に陥る危険が高まり、このことが最も怖い。

 金融工学を駆使したデリバティブ商品は、突き詰めれば全て保険商品のようなものである。このような仕組みを考案し、本来融資先の破綻リスクに備えた引当金の部分を債券に組み立てて、リスクをどんどん他社に転嫁していった。

 ニューヨークの金融法人たちは、ここまでおかしなことをやったのである。そして、その債券化した他社の生命を、金融法人だけで互いに盛んに売買した。実際には、リーマン・ブラザーズとAIGグループ、シティグループや日本の農林中金、三菱UFJ銀行などの間で、このCDS取引が行われていたという。

 そしてその多くは相対取引ではあっても、その“大元”の部分は、全てシカゴ・マーカンタイル取引所(CME、レオ・メラネッド名誉会長)のデリバティブ市場で取引されていたはずである。バブルの崩壊が進んで、このあと仕組み債の機能不全状態がさらに進行していけば、やがてCMEでの取引自体も全般的に強制的に「解け合い」をさせられるだろう。そうなることで、米国金融市場全体の機能停止状態、取引所の停止、そして行き着く先は崩壊ということになっていくのだろう。

● かくして“神の采配”はおりる・・・

 市場が崩壊するその時、それらのクレジット・デリバティブにおける仕組み債の「証券」だけが“紙屑”になる。だからこれまでに何回も手数料だけが抜かれてきた、これまでの取引全部が“リワインド(逆回転)”してゆく。

 この全プロセスがすべて元に戻っていくはずだ。それまで資産価格の高騰から富裕化していた人たちは、積み上げてきた利益(資産)を持ち逃げすることなどは絶対にできないはずである。日本の法律学でも、契約の「解約」と「解除」とは異なるものだ。

 「解約」とは「契約を打ち切る新たな契約」であり、これまで行われてきた取引については有効であるとする。これに対して「解除」では、日本では民法545条で、「解除権を行使したら、原状回復すること」と定められており、契約自体を最初からなかったことにする。つまり、それまでのすべての取引も無効にするということであり、「解約」よりもずっと強い概念である。

 それだけに契約が「解除」される場合には、その原因のところに詐欺や脅迫、恐喝やその他“契約原因(約因、コンシダレーション)に瑕疵(かし:キズの意)があった”とする問題になる。以上のように、契約解除であれば原状回復義務が生じるので懲罰を伴うことが多い。

 したがって、これから米国で起こるであろう事態は、それらの積み上げた巨額の8京円(800兆ドル)にも及ぶ金融取引であるが故に、いくら、大手金融機関が集まって必死の談合で、「解け合い」「解かし合い」による契約解消を画策するとしても、すべてが単なる解約(契約の合意による終了)ではとても済まない。

 そのために、必然的に関係当事者は、これまで積み上げた利益を失うだけでなく、「倍返し」に似た懲罰的な返済義務が生まれる。だからやはり巨額の損失を表に出さざるを得ないという因果応報の段階になりつつある。それはまさしく「金融大破綻国米国の処分案」の発動となるだろう。“米国を処分する America dissolved ”のは、被害を受けた世界中の他の国々である。


● バブルが崩壊すると、その開始地点を  下回るところまで下がる。

 人類の歴史から考えて、バブルが崩壊過程に向かえば、最初にそれが始まった地点にまで資産価格は下回っていく。このことはまさしく“歴史の必然”である。また、相場はオーバーシュート(行き過ぎ)するものであり、それ故にバブルのスタート地点(価格)よりもさらに下回らないと大底は打たないものだ。

 その証拠に、1920年代における米国のバブルも、1980年代後半におこった日本のそれも、それぞれバブルのスタート地点を下回る水準となる1930年代、1990年代になるまで、相場は大底を打たなかったではないか。

 1929年に、NY証券取引所で386.1ドルだったダウ平均株価は、その2年10ヶ月後には40.6ドルまで下落した。1989年12月、東京証券取引所で38,916円だった日経平均株価は、2003年4月に実に5分の1となる7,603円まで下落した。 

 現在の米国のバブルは、ビル・クリントン政権下でロバート・ルービン前NEC(国家経済委員会)委員長が、1995年1月に財務長官に就任し、「強いドル」を標榜してドル高政策を推し進めて、NYでの株高政策を推進した時から始まっている。その時のダウ平均株価は、おおよそ3,800ドルだった。だからNYの株価の下落がオーバーシュートするとすれば、アメリカ発金融恐慌入りにおける「バブル崩壊の最終局面」では、やはり株価自体が3,000ドル台にまで落ちるだろう。さらには3,000ドル割れまで下がる可能性があるのである。この数字は、以前から欧州の悲観派の間では囁かれていたことなのである。

 過剰な強欲は身の破滅を招くもの。腹八分目に医者要らず。欲をかくものは、必ず天罰が落ちる。人生では何事もほどほどを心得ることが大切である。(了)


副島隆彦拝
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