「120」 「小沢一郎 対 検察(オール官僚)の闘い」(6) 「鳩山献金問題」での郷原信郎氏の 文 昨年10月時点 2010.3.15

副島隆彦です。続けて載せます。2010年3月15日です。


●「鳩山献金問題、首相はいつ何を説明すべきか ―郷原信郎 」

日経ビジネス  ニュースを斬る  2009年10月14日
郷原 信郎(ごうはらのぶお) 筆

検察捜査の公正中立の確保のため最大限の配慮を
  いわゆる「故人献金問題」など鳩山由紀夫首相の資金管理団体の政治献金をめぐる問題について、市民団体が行っていた告発を受けた東京地検の参考人聴取が開始されたことが報じられ、今後の政局にも大きな影響を与えかねない問題として注目を集めている。


鳩山献金問題の性格とこれまでの経過
  新聞各紙は社説で、鳩山首相自らが説明を行うよう求め、総選挙で野党に転落した自民党は、今月末に招集される予定の臨時国会で鳩山首相を追及する構えだ。

 筆者は、今年の6月に新聞等で報じられてこの問題が表面化した際も、鳩山氏は、民主党代表としての立場ではなく、政治家個人として自ら調査して事実を明らかにし、説明すべきとの意見を述べてきた。

 これまでの政治資金をめぐる問題の多くは、政治家が、企業・団体、個人などの第三者から政治資金の提供を受けた事実について正しく政治資金の収支報告が行われていなかったケースで、その政治家と資金の提供元との関係について、何らかの便宜供与や「口利き」が行われた疑惑が取り沙汰されるのが通例であった。

 それらとは異なり、「故人献金」という形で表面化した鳩山献金問題は、政治家本人の側が自己の政治資金を拠出している事実が政治資金収支報告書に適切に記載されていなかったという問題が中心であり、これまでの政治資金の問題とは性格を異にする。それ自体について便宜供与や「口利き」などが問題になっているのではない。しかし、そのような問題にとどまるとしても、政治家の政治活動が、どのような企業・団体又は個人の資金によって賄われているのかについて、真実を公開し、国民の監視・批判にゆだね、有権者としての判断の資料にする、という政治資金規正法の趣旨に反していることは否定できない。

 それだけに、政治資金の透明性の問題が指摘された政治家自身が、自主的に事実を明らかにして説明し、その是非について国民が判断するというのが、本来、あるべき姿であった。

 かかる意味では、鳩山氏自身が調査結果に基づいて6月末に行った「2100万円分の個人献金の記載が虚偽だった。解雇した元公設秘書が、預かっていた鳩山氏個人の金を政治資金に充てていながら『個人献金があまりに少なくわかったら大変だ』という思いから独断でやった」という説明では不十分であった。とりわけ、2004~08年の5年間に計約1億8000万円にも上っている寄附者などの具体的事項を収支報告書に記載する必要のない5万円以下の小口献金の中身がどのようなものであるかが不明で、この問題について国民の納得の得られるような説明にはなっていない。さらに詳しい調査を行って、できるだけ早い段階で、その結果を鳩山氏自身が明らかにすべきであった。

 しかし、鳩山氏の側からは、その後、新たな説明は行われないまま総選挙に突入、民主党が圧勝し、鳩山氏は首班指名を受け、鳩山新政権が発足した。そして、今回、この問題について検察の捜査が開始されるという局面を迎え、再度、大きな政治的問題として浮上するに至っている。

 この問題について、国民の立場から、それを代弁するマスコミの側から、鳩山首相に対してさらなる説明を求める声が上がるのは当然であり、野党側が国会でこの問題を追及しようとするのも無理もないことであろう。

現時点で首相が説明を行うことには重大な問題がある
  しかし、6月にこの問題が表面化した時点とは異なり、総選挙の結果、民主党が308議席を獲得し、圧倒的多数の国民の支持を受けて鳩山政権が誕生し、この問題が「総理大臣の政治資金問題」となった現時点では、鳩山首相が、この問題について説明を行うことに関して、複雑かつ微妙な問題が存在している。

 今回の事件を捜査し、処分を決める検察も行政組織の一つである。総理大臣は、検事総長に対する指揮権(検察庁法14条但し書)が与えられている法務大臣も含め行政全体に対して指揮監督権を有している。いくら「不偏不党」「厳正中立」を標榜する検察であっても、総理大臣自身の政治資金の問題であることが、捜査や処分に当たって、有形無形の影響を与える可能性があることは否定できない。

 比較的最近の例では、緒方元公安調査庁長官を詐欺罪等で逮捕・起訴した検察の判断がある。被害者とされる朝鮮総連側が処罰を求めていない事件で、元高検検事長という検察の大物OBを逮捕・起訴するというのは、常識的には考えにくいことだが、その点に関して、緒方元長官は、その著書『公安検察』の中で、「当時、北朝鮮に対する強硬姿勢を最大の存立基盤としていた安倍晋三首相が鎮座する官邸にとって、朝鮮総連に与する元検事の行為は『謀反』と映った。いや、もっと正確に記そう。安倍官邸と与党・自民党の猛烈な怒りを受け、法務・検察の上層部はあまりに激烈な感情を忖度して組織防衛のため先回りし、なんとしても私という“大物OB”を“除去”しなくてはならなかったのだ」と述べている。

 総理大臣の政治資金問題の捜査に関しては、首相や法務大臣の側から明示的な捜査への介入がなくても、緒方事件以上に、こうした検察側の「忖度」が働く可能性は、一般論としては否定できないであろう。

 しかも、鳩山首相の政治資金問題には、主として政治家本人の拠出した政治資金の収支の公開に関する問題だという特殊性がある。かつては、「保有金」として政治資金規正法上も事実上許容されていた政治家本人に帰属する政治資金が、海部内閣における政治資金規正法の抜本改正で、資金管理団体に一元化することが義務化された経緯なども踏まえて、重大性・悪質性の判断が慎重に行われる必要がある。

 このように、総理大臣自身の政治資金問題であることに加えて、刑事事件としての判断が極めて微妙な事件であるが故に、捜査や処分の公正さが疑われることがないよう十分な配慮が必要であり、実質的には当事者の立場にある鳩山首相が、事件の内容や評価に関わるような発言を行うことなど、捜査の方向性に影響を与えるような説明を行うことは、現時点では行うべきではない。

法務大臣指揮権も事実上「封印」すべき
  総理大臣の政治資金問題が検察捜査の対象にされるという異例の事態が生じている状況において、今、鳩山首相の側にとって重要なことは、検察捜査に全面協力し、捜査・処分が公正に行われるような環境を整えることであり、そのためには、現時点で、「今回の鳩山献金問題については、検察の公正かつ適正な捜査が行われることを期待し、それを見守る」という方針を明確にし、法務大臣指揮権も事実上封印しておくべきであろう。

 この点に関して、今年5月に公表された民主党が設置した「政治資金問題第三者委員会」の報告書で、小沢氏秘書の政治資金規正法違反事件について、「高度の政治的配慮から指揮権を発動し、検事総長を通じて個別案件における検察官の権限行使を差し止め、あえて国民の判断にゆだねるという選択肢もあり得たと考えられる」と述べているが、この記述は、今回の鳩山献金問題のような事件での指揮権発動をも是認する趣旨では決してない。

 同委員会に委員として加わった筆者が、再三にわたって説明しているように(「『法務大臣の指揮権』を巡る思考停止からの脱却を」、『民主党vs検察』の行方(日経ネットPlus)、拙著『検察の正義』)、同報告書が指揮権発動の「選択肢」があったと言っているのは、小沢氏秘書の政治資金規正法違反事件が野党第一党党首の政治資金の問題で、しかも、同報告書で指摘しているように、違反の成否すら疑問で重大性・悪質性にも疑問がある事件だったからである。

 そのような事件で野党側に決定的なダメージを与えかねない強制捜査を行うことに対して、与党側の法務大臣が、選挙における国民の政権選択を尊重するという趣旨から、指揮権を発動して差し止めることは「選択肢」としてあり得たと述べているものである。今回の問題は総理大臣の立場にある政治家の政治資金をめぐる問題であり、また、少なくとも、元公設秘書について違反が成立することは明白である。政権政党側が、法務大臣の指揮権を、自らに政治的に有利な方向に行使するというのは、指揮権の弊害が最も顕著に表れる場面であり、最大限に慎重な態度で臨まなければならないのは当然である。

 もし、万が一、検察内部で、総理大臣側の意向を「忖度」するのとは逆の方向に、鳩山首相に政治的打撃を与えようとする意図で不当な法解釈や不公正な捜査手続による捜査や処分が行われるようなことがあれば、行政組織内部におけるクーデターに近いものであり、それを「鎮圧」するために法務大臣の指揮権が発動されることが是認される余地がまったくないとは言えないであろう。

 しかし、少なくとも、現時点までの報道を見る限り、検察の捜査は冷静に粛々と行われており、小沢氏秘書の事件の際のような、公正さが疑われるような捜査が行われる恐れは今のところない。

 鳩山首相側としては、このような検察捜査が適正に行われ、事実が全面的に解明され検察としての処分の内容が確定するのを待ち、検察捜査が終結した段階で、捜査の過程で明らかになった事項に関して鳩山首相自身が十分な説明を行うべきだ。


小口・匿名献金も鳩山氏個人が提供した資金によるもの?
  このような状況下で、今後継続される検察捜査のポイントについて、述べておこう。

 第一に重要な点は、収支報告書に寄附について具体的事項の記載が求められていない5万円以下の小口の匿名の政治献金について虚偽記載がないか、あるとすれば、真実は、その政治資金の拠出元は誰であったかということだ。

 元公設秘書が「故人」の氏名まで用いて収支報告書に虚偽記載を行った理由について、鳩山首相側の調査結果の説明では、「個人献金があまりに少なくわかったら大変だ」という思いだったとされているが、それが事実だとすると、5万円以下の小口献金の金額が膨大な額に上っていることの説明がつかない。

 小口献金として収支報告書への具体的記載を免れていた収入も、「故人献金」などと同様に、実際に献金が行われた事実はなく、鳩山首相個人の側から提供された資金をそのように偽装していた可能性が高いと考えるべきであろう。最近になって、一部報道(10月8日付読売新聞など)では、「鳩山首相側の内部調査」の結果として、小口献金の資金も鳩山氏個人からであったことが報じられている。

 それが事実であるとすれば、その部分についても収支報告書の収入の記載が虚偽だったということであり、虚偽記載の金額が大きく膨らむことになるが、その場合の政治資金規正法違反の事実も、政治家個人が自らの資産で政治活動の資金を賄う場合の政治資金の処理の透明性の問題であることには変わりはなく、金額は増えても、鳩山献金問題の政治資金問題としての本質には基本的に異なるところはない。

 捜査によって、この部分も含め政治資金収支報告書虚偽記載の総額が確定された後に、前記のように、政治資金規正法における政治家個人の政治資金の取扱い、その処理が資金管理団体に一元化された趣旨など、法改正の経緯と、政治資金処理の実態を踏まえて、事案の重大性・悪質性を適切に判断し、処分を決することになるであろう。


献金の処理をめぐる税務上の問題
   今回の鳩山献金問題のもう一つのポイントは、税務上の問題である。 第一に、虚偽記載にかかる政治資金の原資が、鳩山首相の実母の安子氏側から提供されたものだった場合に、贈与税の脱税(相続税逃れ)などの問題が生じるのではないかという見方がある。しかし、仮に、その原資に安子氏に由来するものが含まれていたとしても、それがただちに税務上の問題に発展するわけではない。

 今回問題になっているのは、鳩山氏の資金管理団体に提供され、政治活動に使われたお金であり、鳩山氏が私的な用途に使うための金ではない(この点が、その資金提供の事実自体が政治団体の収入から除外される「ヤミ献金」とは異なる)。仮に、安子氏からまとまった金額が提供され、それが「故人献金」「架空人献金」「小口の匿名献金」などと記載されていたとしても、それは、安子氏からの鳩山首相側への政治資金の寄附の事実が正しく公開されていなかったという問題であり、その資金が、政治活動ではなく個人の用途に使うためのものであったという事実がない限り、個人に対する贈与や相続の問題に直接的に結びつくわけではない。

 むしろ、税務上の問題として重要なのは、鳩山首相の資金管理団体側が、架空の政治献金の事実について、総務省から税金控除のための書類の交付を受けていた事実である。この書類が、実際には献金を行っていない名義人が、行ったかのように装って所得税等の控除の手続をしたとすれば脱税そのものであり、そのことを認識した上で、鳩山氏の秘書の側が、控除書類を交付したとすると、脱税に加担した疑いが生じることとなる。

 この場合、鳩山氏の団体側が、単に、架空の献金事実を収支報告書に記載していることとの辻褄合わせのために総務省から書類の交付を受け取っただけなのか、それが、実際に名義人に交付され脱税に用いられたのかが重要であり、その点は政治資金規正法違反の悪質性を判断する要素ともなる。

注目される野党・自民党の追及姿勢
   これらの点も含め、検察の捜査が適正かつ厳正に行われ、処分が決定されて捜査が終結した後に、鳩山首相自らが、自主的調査の結果も含めて、国民が納得できるだけの説明を行い、その是非を国民が判断するというのが、この問題についての望ましい展開であろう。

 そこで懸念されるのが、国会での自民党などの野党側の追及の動きである。国会で総理大臣として、この問題についての説明を求められた場合、内閣の組成を決める首班指名権を持つ国会議員からの質問に対して、法務大臣指揮権という行政の内部的な問題を理由に説明を拒むことはできないであろう。その結果、首相の国会での答弁が、捜査に影響を及ぼす可能性があり、それが、捜査結果に対する国民の不信感につながるという最悪の事態を招き、鳩山献金問題の中身そのものを離れて、その事実解明をめぐる混乱が、鳩山政権を大きく動揺させることになりかねない。

 しかし、果たして、捜査継続中に国会の場で鳩山首相の説明を求め鳩山政権を窮地に追い込もうとすることが、国民の信を失い総選挙で惨敗して下野した自民党にとって、国民の信頼を回復することにつながるのかどうか、冷静に判断すべきであろう。検察捜査が公正に行われることを期待し、その終結後、鳩山首相の説明に対する十分な追及を行うことが、フェアなやり方として国民に支持されるのではなかろうか。

 もちろん、鳩山首相の側も、検察捜査を説明逃れの「隠れ蓑」にしているような態度をとることは絶対に許されない。そもそも、この問題について刑事事件の捜査がいずれ開始されること、その捜査・処分に影響を与えかねない総理大臣の立場につくことで、国民に対する説明を差し控えざるを得なくなることは、民主党代表として総選挙での政権獲得をめざす以上、当然予想すべき事態であった。本来、政治家として自主的に調査し、説明すべきであるのに、それが十分に行われないまま、このような事態を招いていることに対して、国民に対する率直な謝罪を行うべきであろう。

 また、総理大臣の立場にあるために、検察の捜査継続中は説明を差し控えざるを得ないことについて、十分に納得できるよう説明を行い、捜査終結後には、自主的な調査の結果も含めて十分な説明を行うことを国民に確約すべきであろう。

(転載貼り付け終わり)

副島隆彦拝


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